2004年11月16日

『万物理論』

待ちに待ったイーガンの長編新刊。
なんだけど、買うのにも手間どったし、なかなかまとまった時間が取れなかったもので、結構読み終わるまでに日が経ってしまった。

万物理論
グレッグ・イーガン 山岸 真

東京創元社
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で、これ。
面白い。
未来のぶっ飛んだテクノロジーのこれでもかって言う描写はいかにもイーガンで楽しめる。もうほんと、これらを読んでるだけで十分すぎるぐらい楽しい。イーガンっていうのは基本的に唯物論的というか、生命とか精神の営みは全て物理現象として説明、操作できるという立場にたっていて、それについてはいろいろ言いたいこともあるのだけど、まあこういったSFでそんなこと突っ込むのは野暮ってもんで、それを「仮説」として受け入れた時に展開されるめくるめく世界を楽しめないならば、SFを楽しむこともできないんだろうなって気がする。

さらに、そこだけで終わらないのが長編、特にこの『万物理論』を含む邦訳された3つの長編の魅力。詳しくはネタバレになるんで書けないけれど、この三作が「主観宇宙三部作」と呼ばれていることだけからも、それがどういうことかは推し量ることができるだろう。つまりこれらの作品においては、完全に物質的に記述されていたはずの精神/主観が、論理のドタンバで宇宙の成り立ちそのものに関わってくる。この壮大な循環構造だけでもクラクラきてしまうのに、そのためにくり出すSF長編ならではの大ネタってのが、まあなんちゅーんですか、バカと紙一重っていうか、ほとんどバカっていうか、や、言い様によっては「バカそのもの」って感じで、もうほんとたまらない。ああ、SFの醍醐味って「バカ」なのだなあとかしみじみおもってしまうのであった。

今回提示される大ネタは、それでも比較的ありがちと言うか、「主観宇宙」という言葉から誰もが想像する類いのものなのだけど、それでもその細部の説明だとか、作中に登場する数々の異論なんかは読者を幻惑する魅力を保っているし、それらの展開の仕方たるや、終盤では僕はほとんど数ページごとに「おお!」とか「なに!?」とか叫びながら読んでしまったぐらい。

今回はそういった「大ネタの展開」とともに、作中のドラマの展開も終盤にいくほど加速していき、今までの長編に比べると分厚い本にも関わらず一番リーダビリティが高い感じ。全然違うけど、ポールアンダーソン『タウ・ゼロ』で、宇宙船が加速するとともにドラマや文体までが加速して行くっていう、ああいう具合にストーリーとネタ、双方の展開がリンクしてるところが実に巧み。短編を年代順に並べてみただけでも分かるけど、このイーガンって作家、どんどんストーリーテリングは上手くなってるね。それでもSFとしての面白さが失われないどころかますます過激に(バカに?)なっていくところが、カタカナだと一字違いのホーガンとは大違いで素晴らしい。

そのストーリー部分にも、今回は楽しめるところが沢山会った。それほど凝ったものではないにしろ、フーダニット型ミステリ風味とか、スパイ合戦めいた三つどもえ四つどもえの争いとか。中でも特筆すべきは、いかにも今までもイーガンの作品に一貫して存在した「アイデンティティとテクノロジー」っていうテーマが、ほとんど文学的と言えるほどにまで高まっている点。いつになく前向きで明るいラストと相まって、この作品は、(少なくとも書かれた時点での)イーガンの立場宣言、そのものなんじゃないかなって気がする。個人的には「テクノ解放主義」に大いに共感。どっかで「テクノ解放主義Tシャツ」とか作らんかね。買うよ。もっとも不規則なパターンの明滅とかないと物足りなくなりそうだけど(笑)

とにかく訳者さんが「最高傑作」と呼ぶのもダテじゃない、SFを読む楽しさに溢れた傑作。2004年のベストSFも星雲賞も、海外部門はこれで決まりです。

本題とは関係ないけど、少し前に某サイトで「イーガンっぽい」と紹介されていた某ライトノベルを読んだばかりだった僕は、その指摘が的確だったことに本書を読みながら改めて関心した。タイトルあげただけでネタバレになってしまいかねんので、名前は伏せておくけど。
posted by けいりん at 13:30| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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