2011年03月03日

壊れた世界で

ひとりの女の子の話をしよう。
彼女はごく普通の女の子だった。
ただちょっとだけ、直情的、と言えたかもしれない。
彼女は普段からよく笑い、友達を楽しませ、人の悩みに胸を痛め、不条理な出来事には本気で憤る、そんな女の子だった。

そうだ。彼女はよく笑っていた。
友達と笑いあう時間が、本当に好きだったんだ。
彼女はよく冗談を言った。そうして友達を笑わせ、自分も笑った。
友達が好きだったから。
友達に嫌われたくなかったし、友達を嫌いになりたくもなかったから。
一緒に笑っていれば、「友達だ」と実感していられたから。

友達だから笑いあっていたいのか、笑っているから友達だと思っていられるのか、彼女にはよく分かっていなかった。そんな疑問、頭に浮かんだこともなかった。
楽しいから。
こうしてみんなと過ごす時間が幸せだから。

だからもちろん、自分が心の奥底でずっと恐れているもののことにも、彼女は気がつけないままだった。



ひとりの女の子の話をしよう。
彼女は恋をしていた。
幼い頃から知っている、そんな相手だった。いわゆる幼なじみってやつだ。
彼が苦しんでいるとき、彼女はそれを助けたいと思った。
はじまりは、たぶん純粋な気持ちだった。
自分にしてあげられることはないだろうか? 自分は何をしてあげたらいいだろうか?
そんな風に考えるのは、昔からの知人としても、彼のことを好きなひとりの女の子としても、ごく自然なことに違いなかった。
ただ彼女には、ほんのちょっとだけ、直情的に過ぎる所があった。
何かを思いついたら、その思いつきに縛られてしまう所があった。
だから気がつけなかった。自分がしていることが、彼にとってどういう意味を持つのか。
自分がしていることを、彼は本当に喜んでくれているのか。
そして本当のことを知った時、彼女はずっと心の奥底に押し込めてきた恐れが、目の前に形を持って浮かび上がってくるのを知った。
彼女は、その恐れから逃げたいと願った。



ひとりの女の子の話をしよう。
彼女には、頼りにする年上の友人がいた。

その人は、彼女にとって1つの理想だった。
こんな風に強ければ。こんな風に優しければ。
こんな風であれば、きっとあたしは、何も失わなくて済む。

その人は、ずっと自分を見守ってくれる、そう思えた。
こんな風に強く優しい人が、あたしを見捨てたりするわけない。
きっと、頼りになる先輩のままでいてくれる。

だから、許せなかった。
その人が失われたとき。
その人を失ったままで、何事もなかったかのように続いて行く世界。
その人を失う原因になったと思えたものたち。
その人と別の生き方を冒涜する者たち。
何もかもが、許せない、そう思った。
その人を失ったままでいることに、彼女は耐えられなかった。
だから、彼女は選んだ。その人と同じ生き方を。その人と同じものになることを。
そうしなければ、自分の中のその人をすら失ってしまうような気がした。



ひとりの女の子の話をしよう。
彼女は恐れていた。
失うことを。大切なものが消えてしまうことを。
家族が、友達が、好きな男の子が、彼の奏でる音楽が、自分の理想が、生き方が、思い込みが、欺瞞が。
それらが失われることを、彼女はいつだって、恐れていた。
彼女はそのために、笑い、求め、選択した。
大切なものを失わないための選択が、思いもかけぬ大切なものを失うことだったと気がついた時には、もう手遅れだった。
決して取り返せないもの。かけがえのないものを彼女は失ってしまった。

必死でつなぎ止めようとした。
バラバラのかけらを寄せ集めるために、本来利己的な動機を偽ってまで、彼女は理想に固執した。
そうすることでしか、もう何も守れないのだとばかりに。

もうそこには、
友達といつも笑いあっていたいと言う願いも、
彼を助けたいと言う想いも、
大切な人を失って悲しいと言う気持ちも、
何も残っていなかった。

彼女が、これ以上失わないためには、
失ったことに意味を与え、自分をつなぎ止めるためには、
自分がすべてを失っても続いて行くこの世界を、
憎み、呪うしかなかった。



ああ、なんだ。
これは僕の話じゃないか。
最初から思ってた。自分は何故こんな軽いだけに見える女の子を、必死で分析し、批判しているんだろうと。

無視できるわけなかった。
軽くながせるわけなかった。
彼女は、僕だったんだ。
もしあのときこの手に残るものに気がつけなかったら、そうなっていたかもしれない僕。それが彼女だ。







以上、『魔法少女まどか☆マギカ』第8話「あたしって、ほんとバカ」感想。
posted by けいりん at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 魔法少女まどか☆マギカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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