2007年09月26日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第1回)

けいりん(以下「け」):さて、第一回だが。

ケイリソ(以下「ケ」):はい。

け:「はい」って、オマエ、それだけかよ。

ケ:他になんと言えと。

け:あのなあ、「第一回」だぞ。記念に残る初の紹介だぞ。

ケ:何の記念ですか。

け:だって今後この記事が話題になって俺様が有名になったりこのブログが雑誌で紹介されたり書籍化されたり……

ケ:あり得ないから安心してください。

け:ぐっ……オマエねえ、もう少し暖かい言葉は……

ケ:いいから早く始めましょうよ。何を紹介したいんですか。

け:……ふん、わかったよ、始めりゃいいんだろ、始めりゃ。
 最初に紹介するのは、これだっ!

『光の帝国ー常野物語』恩田陸/集英社文庫

ケ:……

け:な、なんだよ。

ケ:ええと、「光の帝国」って、なんかすごいタイトルですけど。

け:うん、そうだな。その点については久美沙織による解説にも書かれているが、決して「人類未来史が数万年単位で語られて、あっち側の銀河の果てまで舞台が広がって、帝国軍と反乱軍だか革命軍だかがさんざんドンパチやりながら、最後はやっぱ光が勝つ」といった話ではないので、誤解しないように。

ケ:それはそれでSFらしい気がしますけどね。

け:まあな、そういうスペースオペラみたいなものもSFの王道の一つであることは否定しないし、非SF者が抱いている「SF」のイメージっていうのはだいたいそんなところだろうな。しかしだからこそ、最初に持ってくるのはそういうもの以外の方がふさわしかろうと思ったのだ。「SFにはこういう話もあるんだ」ということを、SF初心者にもぜひ知ってもらいたい!

ケ:で、どういう話なんですか。

け:簡単にいうと、「常野」という架空の土地を故郷とする、不思議な力を持った人々を描いた連作短編集、だな。

ケ:要するに超能力ものってことですか。

け:うん、まあそういってほぼ間違いではないかな。

ケ:それもまた王道っぽいですよね。

け:ああ。今度は「遥か古代に栄えた光の帝国の善なる超能力者の生まれ変わりたちが、悪の超能力者一族と戦う物語」などと誤解を受けそうだが……

ケ:違うわけですね。

け:全然違う。ここに収められた作品が語るのは、不思議な力を持ちながらも「権力を持たず、群れず、常に在野の存在で」ある彼らの、むしろ穏やかな日常なのだ。

ケ:日常、ですか。

け:そう。それにさっきは肯定したが、「超能力」と単純に言ってしまうにはちょっと抵抗があるのも事実でな。ここに出てくる「不思議な力」の中には、簡単にそうは言い切れないものも多いし、実際「超能力」という言葉は作中では使われていない。

ケ:あれ? そうすると、前回行ってた「SF的面白さ」っていうのは、どこで満たされるんですか?

け:そこなんだよ、今回この本を持ってきたのは。それについて語ることは、そのままこの本の面白さについて語ることでもある。

ケ:?

け:日常、とさっき言ったな。けれども「不思議な力」を持った彼らが主人公である以上、それは我々の見知った日常とは確実に違っている。

ケ:それは……そうでしょうね。

け:それをあくまで「日常」というトーンの中で描き出すのが恩田陸のうまいところだが……。それでも確かに存在する、この「違い」がもたらす詩情、それこそがこの連作短編集の最大の読みどころなのだ。

ケ:「違い」がもたらす詩情……

け:たとえば一番最初に収録されている「大きな引き出し」では、本や音楽、情景、人などを、「しまう」能力をもつ一家が描かれる。

ケ:「しまう」というと?

け:写真記憶、というのがあるな。一度見たものを細部まで丸ごと覚えてしまう、という特殊な記憶の仕方のことだが。

ケ:聞いたことはあります。

け:「しまう」というのは、それと似ている、というのが一番わかりやすいだろう。

ケ:ものすごく記憶力がいい、と。

け:うん、まあ、最初の段階ではそう言ってもそう間違いではない。だが「記憶する」のと「しまう」のでは、本質的に異なっている。

ケ:はあ。

け:「記憶する」というのは、見たり、聞いたり、読んだり体験したりしたことの、「情報を保存する」ってことだな。

ケ:ええ、まあ、そう言っていいのかな。

け:「しまう」というのは、どうも、得られた情報、というのではなく、接したそのもの自体を、その背後の本質を含めて、丸ごと自分の中に取り込んでしまう、ということらしいのだ。といっても対象が消えてしまうわけではないがな。

ケ:うーん、わかったようなわからないような。

け:うん、こうして説明することには限界があると思う。だが、恩田陸の筆は、俺などが不器用な説明を連ねてそんな風にしか思ってもらえないものを、感覚的にわからせてしまうところがある。まあここでは、「ものすごく記憶力がいい」みたいなもの、というくらいの理解でいてくれていいだろう。
 この「感覚的なわからせ方」だけでも、十分詩情に満ちていると言っていいんだが、この話にはさらに先がある。

ケ:と言いますと。

け:「しまう」ことのできる一族は、成長につれて、かつて「しまった」ものを、「響かせる」ことができるようになる。さっきの説明の続きで言えば、「自分の中にまるごと再現する」とでも言えばいいのかな。この能力を「響く」と表現するところがまたすばらしいし、その能力を設定したことで描かれる物語の感動と言ったら。

ケ:うーん、わからないなりに面白そうな気がしてきました。

け:だろだろ。その「面白そう」なあたりが、どうにもSFなんだよ。
 SF、というのは、不思議な出来事や何かを、そのまま描写するのではなく、たとえ架空の理論を使ってであっても(科学的に)説明するものだ、という考え方がある。これはこれで間違いではないし、その捉え方で言えば、『光の帝国』は狭義のSFには入らないかもしれない。
 だが、ここには確かに、「現実に架空の何かを導入したことで得られる感動」があって、それは多分にSF的なものだとオレは思う。

ケ:なるほど。でもそれってファンタジーとは違うんですか。

け:うーん、そこはうまく説明できないところなんだが。一つ思うのは、これがやはりSFの一つのサブジャンルである「超能力者もの」の系列に当てはまる、ということだな。

ケ:でも「不思議な力」というなら魔法でもいいわけですよね。

け:それが違うんだなあ。まずこの作品集が、ゼナ・ヘンダースンのSF《ピープル》シリーズにインスパイアされたものだ、というのが一つ。そして、ここに収められた作品で語られる、「不思議な力を持った故の不安と葛藤、遍歴、一般人との諍い」などは(ファンタジーにおいても描かれたことがないわけではないだろうが)、主に超能力もののSFにおいて、繰り返し描かれてきたもののテーマだ、というのが、これをSFとして紹介する大きな理由だ。

ケ:つまり、ここには「善の超能力者と悪の超能力者」みたいなハデな話ではない「超能力もの」に共通する面白さの一端があるわけですね。

け:そうそう、その通り。
 また、「日常」とはいってもこれがなかなかどうしてバラエティーに富んでいるのもオススメの理由の一つだ。「二つの茶碗」「草取り」等は「大きな引き出し」とも似たトーンの物語だが、「オセロ・ゲーム」などはホラーにも近接するし、「歴史の時間」「黒い塔」ははシリーズ全体と彼らの存在意義を問う作品、表題作と「国道をおりて…」は、ある悲劇とそこにもたらされる救いを描いた、対になる作品だ。

ケ:ホラーまであるんですか。

け:ああ。残念ながらちょっと半端な終わり方をしているが、それもなかなかオツだし、どうしても気になるというのであれば長編「エンド・ゲーム」はこの続編になっている。
 そしてもうひとつ、SFとは関係がないが、連作短編集としての仕掛けもなかなかのもので、最初のうちバラバラに見えていた各作品は、読み進めるうちにいくつかの登場人物によって緩やかにつながっていく。いくつかの作品は、はっきりと別の作品の続編として書かれているが、それら以外の「つながり」を見いだすのも、本書の読みどころの一つだろう。
 そして最後まで読んだときに待ち受ける感動は……うん、まあ、それこそ必ずしも「SF的感動」ではないんだが、「読み終わったときにハンカチが必要にならなかったら云々」って台詞は、この本のためにこそあるんだとオレは思うよ。

ケ:なるほど。とにかく最後まで読め、ということですね。

け:恩田陸、というのは、いわゆるジャンル作家ではないと思う。スリップストリームというか、分類不能の、「恩田陸」というジャンルの作家だな。けれども、SFやミステリ等の「ジャンルを愛する心」は多くの作品にあふれていて、この『光の帝国』もその一つだと思う。恩田陸にはよりストレートなSF作品である『ロミオとロミオは永遠に』や『ねじの回転』『月の裏側』といった作品もあるが、SF初心者には、むしろこの穏やかな短編集から、SFのある種のエッセンスを感じ取ってほしいと思うわけだ。
 もうちょっと派手な話が好きな向きにはやはり超能力ものの『劫尽童女』もあるしこれも面白いが、同系統の作品なら他の作家にもオススメはあって迷うところだな。

ケ:他の作品も面白そうですね。ではまた来週。

け:また来週!
posted by けいりん at 22:52| Comment(0) | TrackBack(1) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

ACRI デジタルリマスター【初回生産限定価
Excerpt: ACRI デジタルリマスター【初回生産限定価格】・The Dragonriders of Pernシリーズ・SFホラーファンタジー・「EyesOnMe」に関する情報ファイナルファンタジー・人気アニメ・..
Weblog: ファンタジーを極める
Tracked: 2007-09-28 23:15
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。