2004年09月15日

『屍の王』

絶版になっていた、牧野修のホラー長編。『スイート・リトル・ベイビー』がホラー大賞の佳作に入選して以来、ホラー作家としてのイメージが強いが、デビュー後五年を経て書かれたこの本こそ、氏の最初のホラー長編だった。

だからといって、後の『リアルヘブンへようこそ』『アロマパラノイド』といった傑作ホラー群に比べて劣るかと言えば、全然そんなことはなく。
たとえば『MOUSE』と『リアルヘブン』の共通項みたいなものは、この作品にもはっきり現れていてファンを喜ばせてくれるし、読者を呑み込むかのような濃密な「嫌な描写」も、後の作品にひけをとらない。

落ちぶれたエッセイストが書きはじめた小説『屍の王』にまつわる物語。登場人物と作中作『屍の王』の関係が読者とこの本との関係と相似形をなすのは、こう言ったメタフィクション的なものの基本だし、実話風のエピローグも取り立てて珍しいものではない。だが牧野修の「嫌な描写」は、それらありきたりの展開に濃密な手触りを持った血肉を与えている。牧野修の書く「嫌な話」には中毒性があって、僕らは嫌だ嫌だ嫌だと言いながらそこに書かれている言葉から目を離すことができない。そして気が付くと僕らは『MOUSE』のドラッグと言語の世界に酩酊したように、『屍の王』の闇に呑み込まれているのだ。

読み終わった後、しばらくその闇から抜け出ることができない。この感じはデビッド・クローネンバーグの映画を観終わった後の感じにちょっと似ているような気がする。


屍の王
牧野 修

発売日 2004/09
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posted by けいりん at 13:20| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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