2007年10月19日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第4回)

ケイリソ(以下「ケ」):落としましたね・・・

けいりん(以下「け」):言うなっ! 大人にはいろいろあるのだ!

ケ:いや、むしろ困難な中約束を果たし、責任を取るのが「大人」というものでは。

け:ぐっ!

ケ:だいたい「いろいろ」って言ったって、「寝ちゃった」ってだけじゃないですか。

け:うるさいうるさいうるさーい!

ケ:全くどこが大人なんだか……

け:ええい、うるさいというに! とっとと始めるぞ!

ケ:ふふん。

け:な・なんだよ。まだ何か言いたい事でも……

ケ:いえいえ。落とした件はさておくとしましてですね。実は、今回は予習をしてあります。

け:ほう。

ケ:某所で密かに次回作品を予告したでしょ。あれ、見ちゃったんで。候補作は全部読んでおきましたよ。

け:それは関心だな。

ケ:なんなら私が解説しましょうか。

け:まあ先走るな。まずは読者の皆様にも本を提示して、だな……えーっと、今回はこれだあっ!

飛浩隆『象られた力』


ケ:………んぐっ。

け:どうした。ほれ、内容を紹介してみい。

ケ:い……い……インチキだっ! でたらめだっ! 卑怯だっ!

け:さて、何の事かな?

ケ:だってアンタ、こないだは別の作品を二冊……

け:あのなあ、あんな閲覧者が限られた場所(※某SNSです)で予告してその通りにやったら、むしろそこを見られないお客様に失礼だろが。

ケ:んな事言ったって。じゃあなんのためにあんな。

け:え? ノリだよ、ノリ! 何となくあの時はそういう気分だったんだよ!

ケ:どどどどっちが失礼なんスか!

け:まあいいじゃないか。その二冊もいずれは紹介するつもりだしな。
 それにどうよ、面白かったろ?

ケ:そりゃあそうですけど……

け:じゃあ全然無駄じゃなかった、ってことで、今回の作品だ!

ケ:まったくもう……ぶつぶつ……
 あれ? これ、短編集ですね。

け:うん。第一回でとりあげた『光の帝国』は一応連作だが、今回は各作品につながりのない短編集を取り上げてみた。もちろん、どれも傑作なので安心して読んでいいぞ。

ケ:収録作は……「デュオ」「呪界のほとり」「夜と泥の」「象られた力」の4作品ですね。

け:うん、だから「中短編集」って感じの分量かな。
 「デュオ」はある天才的ピアニストの秘密を巡る現代物。
 残る3編は皆遠未来の宇宙を舞台にしているが、雰囲気も舞台設定もだいぶ異なるな。
 「呪界のほとり」は、瞬間移動ネットワーク内で迷子になった主人公の冒険を描いた作品。ちょっとファンタジーめいた雰囲気もあるな。
 「夜と泥の」は、とある植民惑星上で満月の夜に起こる不思議な現象を描いた、正統派のSF短編。二人の学者がこの現象をあれこれ解釈するところは前回前々回と話してきた「SFらしさ」に通じるし、「SFは絵だ」みたいな考え方から見ても非常に優れたSFと言えるだろう。
 「象られた力」では、通常の我々のテクノロジーの延長線上にはない、ある技術(というか芸術というか)によって起こるカタストロフを描いた作品で、「通常」では「ない」テクノロジーとはいえ、そのシステムを描ききる力技といい、それがドラマとしての盛り上がりに直接重なっている点といい、まさにSFの醍醐味を感じさせる作品だ。オレが一番好きな作品でもある。

ケ:ちょっと取っ付きにくそうな気もしますが。

け:うん、オレもそう思っていたんだよな。でも、オレが「一番好きだけどちょっとディープすぎるかな」と思っていた表題作なんかは、とある非SF者に「傑作」と支持を得た事もあって、思うほど取っ付きにくくはないのかもしれない。むしろ「呪界のほとり」「夜と泥の」のほうが、とっつけなかったり、入り込めなかったりする傾向はあるみたいだな。まあしかし表題作が最長の作品集なので、買ってみてもそんはないと思う。

ケ:「デュオ」はこれだけ聞くとSFに聞こえませんが。

け:ああ、そうか。うーん。でもオレとしては、序盤でわかる事柄についてもネタバレは避けたいからなあ……。SFネタ、という事で言えば、テレパシー絡みの話だ、というだけ言っておけばいいかな。
 先に「つながりのない」と言ったが、実はこの作品(というより飛浩隆の作品)には、ある共通するテーマが見えない事もない。それは「肉体と精神」とか「形と本質」みたいなテーマで、『象られた力』という作品集のタイトルは、収録作品のタイトル、というにとどまらない意味を持っているように思う。
 で、「デュオ」もそう言う話だ。

ケ:さっぱりわかりません。

け:ぬ。
 そうだな、ではネタバレを避けつつあらすじを紹介してみようか。
 かつてピアニストを志し、将来を嘱望されながらも事故で演奏能力と恋人を失った主人公が、かつての恩師に呼ばれるところから話は始まる。彼は現在ピアノの調律師をしているのだが、その彼を、ぜひとも専属の調律師として紹介したいピアニストがいる、と恩師はいう。ただし、本人たちの希望で、経歴その他詳しい事は、実際に会うまで明かすわけにはいかない。その代わりにと聞かせたのは、そのピアニストの演奏の録音。一通り聞いた彼はその話を受ける事を決意し、初対面に向かう。そこで明かされた衝撃の事実。

ケ:だからどこがSFなんですか。

け:こっからだよ。黙って聞け。
 まあとにかく彼はそのピアニストのために仕事をする事を了承する。いくつかの音楽的、技術的衝突を経ながらも、ピアニストやスタッフと彼の関係はすこぶる良好だった。最初のレコーディングも終わり、謎のピアニストとして彼らの名声は高まっていく。
 そんな中、主人公をいくつかの怪現象が襲う。その怪現象の正体を突き止めようと奔走するうち、彼は気がつくのだ。彼らの演奏に介在している、隠れた「もうひとり」の存在と、その野望に。

ケ:うわー、謎だらけでやっぱりさっぱりわかりません。

け:悪かったな! どうせあらすじ語るのはヘタクソだよ!

ケ:いやいや。まあつまり、その「もうひとり」がテレパシー怪人な訳ですね。

け:……「怪人」て。いや、多分想像してるのとは全然違うぞ。読んでみてのお楽しみだな。

ケ:わからないなりに、ホラーかサスペンス、ミステリみたいにも感じますが。

け:うん、そういう要素もあるな。いろんな意味で、これが一番「初心者にオススメ」できる作品だ。
 そんなに数は多くないが「音楽SF」ってジャンルがあってな。19世紀のウィーンやロンドンにクラブとテクノを持ち込んでしまった高野史緒『ムジカ・マキーナ』や、あるオルガニストの秘密を追う山之口洋『オルガニスト』などがそうだが、テレパシーと音楽が結び合ってその謎とサスペンスの本質を形作っているこの作品も、「音楽SF」の一つに数えられると思う。
 そして他の作品でもそうなんだが、飛浩隆は「感覚」へのこだわりにも定評がある作家だ。この作品の場合、もちろんそれは音楽描写にも発揮されているんだが、他にも、主人公が体験する異常な寒気や屍臭といった、作品にとって本質的な部分から、何気ないシーンで主人公がとる食事等、あちこちで読者を作品世界へと引き込む役割を果たしている。
 それは、「デュオ」だけではさほど明確ではない、飛浩隆ならではの「SFらしさ」とも繋がっていて、それこそが先程述べた、「肉体と精神」「形と本質」といった、どちらかと言えば形而上的な問題なんだな。飛浩隆は、テレパシーといった特殊能力や、異質なテクノロジー、あるいはもっと身近というか、現代のそれの延長線上にありそうなテクノロジーなどの描写を通して、絶えずこの問題に深く迫っているように思う。
 だがそれはどちらかといえば「深読み」した場合の問題で、「デュオ」と同様、物語自体の牽引力や、感覚描写の濃密さに引き込まれながら、あっという間に読み終わってしまい、にもかかわらず、忘れがたい印象を残すのが飛浩隆という作家の作品だ。

ケ:なんだかすごそうです。

け:気張る必要はないんだったら。大真面目に、込み入った問題と切り結びながら、読者を楽しませる事も決して忘れない作家なんだから。この短編集は、初期作品集ながら、そのストリーテリングや描写のうまさも、奥にあるテーマも、存分に、そして手軽に味わえる一冊だ。宇宙とか未来はちょっと………という読者も、まずは「デュオ」だけでも読んでみてほしいな。気に入ったら、他の作品も読んでみるといい。もしそれらの中にも面白いと思えるものがあったなら、長編『グラン・ヴァカンス』に進むのもいいし、似た面白さを求めて他の作家の作品を読みあさるのもいいだろう。

ケ:あ、今読んだ覚えのある書名が………

け:それは忘れろって。そのうち紹介するから。

ケ:では、次回予告など……

け:だから忘れろっての! 予定は未定だ!
posted by けいりん at 22:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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