2007年10月25日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第5回)

けいりん(以下「け」):あらかじめ言っておくが。

ケイリソ(以下「ケ」):何ですか、改まって。

け:うん。実は今回紹介する本には、大きな欠陥がある。

ケ:欠陥品を掴ませようと。

け:いやまあそうなんだが、欠陥にも関わらず、どうしても読んでもらいたい、読んでそんはしない、というか欠陥にも関わらず傑作なんだってば、という想いがあるから紹介するわけでな。

ケ:うーん。その「欠陥」ってなんなんですか。

け:一言で言うと「ものすごく読みにくい」だな。ほとんど小説としての態をなしていないとすら言える。

ケ:……ダメじゃん。

け:うぐ。

ケ:そんなものをSF初心者に紹介してどうするっていうんですか。何ですか、あなたはみんなに「SFはツマラン」「SFは読みにくい」「SFは小説以下」なんていう先入観を植え付けようってつもりですか。

け:そう言うなよ。少なくともある種の読者には、たまらない魅力をたたえた本である事は確かなんだから。

ケ:「ある種の」って、それがSF者のことなら、ここで紹介する言い訳にはなりませんよ。

け:わかってるって。
 まあその件については追々語るとしてだな。まずは紹介しておこう。



J.P.ホーガン『星を継ぐもの』


ケ:なんか聞いた事あるようなタイトルですね。

け:うん、かっこいいタイトルだからな、結構あちこちでパクられてるな。

ケ:で、これがオススメの理由、というのは。

け:それにはまずあらすじを聞いてもらうのが早いかな。
 時は近未来。月面で、宇宙服をまとった死体が発見される。どこをどう調べても人類のものと寸分違わないその死体の死亡時期は5万年以上前……人類発生より遥か以前だったことが判明。この謎に、世界中の科学者が激論を繰り広げる事になる。主人公のヴィクター・ハントもその一人だった……。

ケ:未来とか月とか時間規模を別にすれば、まんまミステリみたいに聞こえます。

け:そこだよ! まさにその通りで、これは恐ろしく規模のでかい謎解き物語、ミステリなんだ。

ケ:へ? でもSFなわけでしょう? そこはタイムマシンを使ったり宇宙人だったり。

け:いやいや、そういったSFガジェットノたぐいはこの本にはほとんど登場しない。ほとんど、というのは、「同時期にガニメデで発見された、地球外生命による宇宙船」が絡むからだが、それもむしろ「事件当時の状況」を形作る一要素として扱われており、謎解きには直接絡む事がない。そう言う意味では全くフェアなミステリといっていい。状況はすべて説明され、不可能な事はあくまで不可能として退けられる。

ケ:でもそれだとこの作品の「SFらしさ」というのは一体どこに?

け:そりゃもちろん、この圧倒的なスケールの大きさだな。最近の新本格作家の中には、SF的世界観を用いた、それでいてフェアなミステリを各人もいるようなので、同程度、もしくはこれ以上にスケールの大きいものもあるかもしれないが、この圧倒的な「謎のデカさ」はSFでなければ描き得なかったもの、といっていいだろう。 謎解きの過程もすこぶるSF的、というか科学的なもので、喧々諤々する科学者たちの様子を読むだけでも、SFらしさが堪能できると思う。
 極めつけはこの状況を生み出した、まさに驚天動地のトリックで、謎そのものが持っていた「SFならではのスケールの大きさ」は、最後の謎解き部分で、さらに何倍にもなって帰ってくる事になる。
 いやほんと、島田荘司もびっくりというか。

ケ:フツーに面白そうに思えてきましたが。

け:うん、そうだろう? ただ、このフェアさというかミステリらしさが裏目に出てる部分もあって、それが最初にいった「読みにくさ」に直結してるんだよなあ。

ケ:ああ、わかる気がします。ミステリでもたまにありますよね、すべてが「説明」以上のものになり得てなくて、小説として未熟、といったたぐいの作品。

け:そうそう、そうなんだよ。この本が持っている読みにくさも、基本的にそれと同じものなんだ。
 それでも最後の「トリック」は読む価値があるので、我慢して読んでみてくれ、というしかないんだが。大きな謎と大きな真相の作品を読みたいたぐいのミステリファンには絶対の自信を持って勧められるんだが、もっと日常的な謎を好むファンもいれば、ミステリもあまり読まない人もいるだろうからなあ。

ケ:では、今回は「限定付き」ということで。

け:ん、それがいいだろうな。
 あ、ちなみにこの本には3冊の続編があって、そこに向けての「引き」もあるんだが、私見では、このシリーズはこの本だけ読んでおけばそれでいいと思う。「スケールの大きい謎解きの快感」が一番ストレートに味わえるのはこの一冊目だろうからな。

ケ:では、ちょっと短いですが今回はこの辺で。

け:うん。ではまた来週。
posted by けいりん at 01:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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