2007年11月15日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第7回)

けいりん(以下「け」):さて、でははじめようか。

ケイリソ(以下「ケ」):ちょっと待ったーーーーーーーっっ!!

け:ん? 何かな?

ケ:……しらばっくれる気ですか。前回の更新はいつでした?

け:え? 10/31だろう?

ケ:で、今日は何日なんですかっ!

け:11/14深夜、11/15未明だな。それがどーかしたのか。

ケ:だってあんた先週の

け:先週? はて、なんのことかな?

ケ:…………

け:忘れろ、過ぎた事は! デイヴィッド・ブリンも言っていたぞ。「SFは未来の文学だ」とな!

ケ:はいはいはいはい、わかりましたわかりましたわかりました、もういいですよ。全くまともに相手してるのがあほらしくなってくるっつーかぶつぶつ

け:よし、気が済んだところで、今回はこれだ!


『永遠の森 博物館惑星』菅浩江/早川文庫NV


『五人姉妹』菅浩江/早川文庫NV


ケ:………

け:なっ、何だその目は!

ケ:いや、なんで二冊なのかなーと。

け:べっ、別に気にしてるってわけじゃないんだからねっ! ただたまたま両方いっぺんに紹介した方がやりやすかったから、それだけなんだからっ!

ケ:四十代に手が届こうかというオヤジがツンデレやってどうするんですか。

け:アンタの事なんか別になんとも……

ケ:あー、わかりましたわかりました! じゃあ紹介にうつってください。

け:うむ(コロッ)。
 まず『永遠の森』だが、日本推理作家協会賞なんかも受賞してるんで、SFファン以外にも比較的知られているかもしれないな。未来の軌道上に浮かぶ小惑星につくられた博物館を舞台に、「美とは何か」というテーマで繰り広げられる、連作短編集だ。マイクロ・ブラックホールを用いた小惑星のテラフォーミング、頭脳とコンピューターの直結による検索システムなど、ガジェットを説明していくとずいぶんお固い印象があるが、話はむしろ「やわらかな」感触を伝えるものだ。主人公をはじめとするキャラクターも魅力的だし、現実的な芸術作品だけでなく、SF的、空想的なそれらですら、描写もストーリー上の取り扱い方も、極めてやわらかく、あたたかい。

ケ:推理作家協会賞、ということは、ミステリ的な要素もあるわけですか。

け:うん、そうだな。基本的にどの話も、この博物館の学芸員である主人公・田代孝弘のもとに、所蔵品や上演作品に関する厄介ごとが持ち込まれ、それをどうにかして解決する、という展開なので、謎解きの要素もそれなりにあるとは思う。ただ、だからといって「謎解きの面白さ」等を目当てにこの本を手に取るのは、ちょっとピント外れであるような気がするな。やはりこの作品の見所は、「美」をテーマに展開されるそれぞれのドラマの叙情性にあるように思うからだ。

ケ:まあそこはそう言うミステリが好きな方もいますし。

け:うん、そうかもしれないな。
 さて、これ以上話をする前に、もう一冊をざっと紹介しておこう。
 『五人姉妹』は、『永遠の森』と同じ作者による短編集だ。『永遠の森』とは違って別に連作ではないが、《博物館惑星》番外編、「お代は見てのお帰り」が収録されている。『永遠の森』が学芸員を主役に据えた物語であったのに対して、これは鑑賞者の側を主役に据えた短編で、本編とは別の角度から同じテーマを語る事に成功しているといっていいと思う。
 実は、最初はこっちの短編集を紹介しようと思ってたんだ。

ケ:こっちの方が面白いのですか?

け:うーん。それは一概には言えないし、収録作品の粒のそろい方やら何やらを考慮すれば、むしろ『永遠の森』に軍配が上がる気はするんだが。
 ただ、『五人姉妹』のほうが、「SFとして」の面白さが、よりはっきりと出ているような気がするんだよ。

ケ:『永遠の森』では物足りない、という事ですか?

け:いやいやいや、決してそうではないんだが。
 例えば、先ほどちらっと話したが、この作品中での学芸員たちは、頭脳と博物館のデータベースを直接接続し、必要な情報をすぐに検索できるようになっている。それは具体的な指示だけでなく、「漠然とした印象」からも検索可能という優れもので、今ここを読んでいる程度にインターネットを楽しむ人なら、欲しくなる事請け合いのシステムなんだが、まあそれはひとまずおくとして。
 このシステムは全編を通して非常に重要なものとして描かれるし、彼ら「直接接続者」とそうでない人間の感じ方の違いなども話に上ったりして、存在自体も取り扱われ方も、非常にSF的なんだ。
 ところが読んでいる間にそういう「SF的な何か」をビシビシ感じさせるかというと、必ずしもそうではないんだな。最初に行った通り、「やわらかな」印象をもたらす描写や展開、常に接続している人間の感覚を通して語られるところ等が理由だと思うが、携帯電話でネット接続するのが当たり前になった現在、いわば「検索システムと一体」であるかのような生活に慣れた人は、よりいっそう日常感の方を強く感じるだろうな。
 こういった、「とてもSFなのにそう感じさせない」という作品は、まあ確かに初心者にオススメ、という点ではむしろ向いているんだろうと思うんだが、ちょっと売れた本でもあるし、この連載ももう7回目を迎えた事だし、SF者としては、もうちょっと、いわばエッジのたった作品も紹介しておきたい気がするんだよ。それで、著者が同じなのをいい事に、一緒に紹介してしまおう、というわけであって、別にアンタのためってわけじゃないんd

ケ:はいはい、それはもうわかりましたから。
 それより「エッジがたっている」というのは、具体的にはどういうことでしょう。

け:たとえば表題作だ。
 ある女性と、その四体のクローンのやりとりが順に語られるこの作品、『永遠の森』の各編と同様、やわらかな叙情性をたたえた短編なのだが、この叙情は、主人公が会話する相手が彼女自身のクローンである、という点に支えられている。架空の、または未来のテクノロジーを用いなければ描けないストーリーと叙情。「SFならではの感動」というのは、こういう者を言うんだと思う。
 『永遠の森』にこういう側面がないわけでは決してないのだが、こちらの短編集の方がずっとストレートにそれが出ていると思うんだよな。もっとも、その分初心者にはとっつきにくかったり、素直におもしろがれなかったりするのかもしれないんだが。
 ちなみに、『永遠の森』収録作品の中でも、「きらきら星」にはちょっとそういう傾向があるかな? 数学の美、というものに想いを馳せる事ができる人なら問題ないと思うが。

ケ:なるほど。

け:まあしかし、言うほど怖がる事はないと思うがな。文章は非常に読みやすいし、だからといって必要以上に軽いわけではない。それに普通に読んでも、どの作品も優に平均以上の出来だと思う。
 まとまった話が読みたい人は『永遠の森』を、少しいろいろ読んで好みのものを見つけたい、単純にいろいろ楽しみたいという人は『五人姉妹』を、というくらいの感じでいいのかも。

ケ:そんなわけでとってもお得な2冊同時紹介でした。
 また……………来週?

け:べっ、別にワザとってわけじゃないんだk

ケ:だからそれはもういいですってば!
posted by けいりん at 02:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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