2007年11月21日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第8回)

けいりん(以下「け」):たまには話題作でも取り上げようかな。

ケイリソ(以下「ケ」):媚びるわけですね。

け:媚びる、て……口悪いよ、オマエ。

ケ:媚びでなかったら何だというのですか。

け:見かけで媚びて中身で落とす、これが口説きの理想だろうが。

ケ:さて、そううまくいきますかどうか。

け:まあ見ろ、出版社だって同じ事やってるんだから!




ケ:おお! 映画化作品!

け:しかも表紙が映画だ。この名作を、映画化の高価を狙ってしか復刊できないっつーのはなんだかな、ではあるが。

ケ:名作なのですか。

け:おおよ! 某SF専門誌のオールタイム・ベストにタイトルがあがらないのが不思議なくらいだな!

ケ:ホラーアクションかと思ってました。

け:まあな、そういう色合いが強い事は強いな。ハヤカワ文庫の分類も「SF」ではなく「NV」(海外小説一般)だし、なんといってもテーマが吸血鬼だ。

ケ:吸血鬼! ホラーの王様じゃないですか。

け:その通り、と言っていいんだろうな。ただ、ほら、世の中にはSFホラーとか、バイオホラーとか、そういうキメラ的なジャンルがたくさんあるだろう。

ケ:これもそうだ、と。

け:うん。いや、気分的にははっきり「SF」と呼びたいところだが。

ケ:しかしコウモリに化けたり十字架やニンニクで退治される怪物のどのへんがSFなんでしょうか。

け:いやいや、SFのことを「IF(もしも)の文学」とする考え方からすれば、「もしも(そう言う伝統的な)吸血鬼が存在したら」を追求するだけでも立派なSFになるぞ。
 とはいえ、この本がSFだ、というのは、必ずしもそう言う意味合いではない。最近あまり話してなかった「科学的」って話を思い出しながら聞いて欲しい。
 本書の舞台は近未来。突如蔓延した吸血病で、主人公・ネヴィル以外の人間はみな吸血鬼になってしまった。ネヴィルは夜ごと襲いくる吸血鬼と戦いながら、他の生き残りを探し続ける。果たしてネヴィルに、人類に明日はあるのか? 恐るべき吸血病の正体とは……

ケ:「病気」扱いってだけでSFですかあ?

け:いやいや、そうじゃないんだ。吸血鬼化をただ「病気」と呼ぶくらいなら、ブラム・ストーカーだってやっている。ただ、ここでの「病気扱い」はただの名付けにとどまらないんだな。病原体の特定からその性質まで、第二部で繰り広げられる考察はとても合理的で、その事が本書に「SFらしさ」を加味しているのだ。

ケ:どんなふうにでしょう。

け:そこはほれ、大事な読みどころだから「ネタバレ防止」ってことで。

ケ:焦らしますねえ。

け:まあ本筋とは関係ないともいえるんで、いいっていやいいんだけどな。それでも、こういうリアリティから生じている恐怖ってのも確かにあるんじゃないかと思うわけだよ。

ケ:SF的な考察によって、ホラー要素にもプラスされている物がある、という事ですね。

け:そうそう。
 そしてもう一つは、この本のタイトルに関わる話だ。

ケ:いかにも映画の邦題にあわせたっていうカタカナタイトル、どうにかならなかったんでしょうかね。

け:その件についてはノーコメントという事にしておくが……まあわからんでもないかな。今回の新訳新装版が出る前は、「地球最後の男」というのが本のタイトルだったのだが、これも同じ原作による映画版の邦題をそのまま転用した物だったらしいな。
 カタカナにするよりは以前の邦題の方が良かったかな、という捉え方もあるかもしれんが、実はオレにとっては、今回のタイトルの方が理想に近い。

ケ:理想ですか。

け:うむ。というのも、このタイトルにこそ、この物語の最大の仕掛けが隠されており、その仕掛けとは、SF的な価値観の転換、そのものだからだな。
 常識を疑い、架空の道具立てによって価値観を鮮やかに転換してみせる、それはSFという文学がもつ、重要な機能の一つだ。「吸血病」という道具立てによってそれを描き抜いた本作は、まさにSF。SFの王道、と呼んでもいいくらいだ。

ケ:価値観の転換、ですか。

け:そう、例えば平井和正が当初《ウルフガイ》で書こうとした物にも通じるかもしれないな。

ケ:そう言われてもSF初心者の私にはなんのことやら。

け:や、すまんすまん。つい暴走してしまった。
 暴走ついでに脱線しておけば、藤子・F・不二雄氏の短編マンガ「流血鬼」は、この作品に捧げられたオマージュで、本書に勝るとも劣らない傑作だ。なんなら先にそっちを読むのもありかもな。

ケ:映画、小説、マンガと縦横無尽に話が広がった今日の紹介でした。ではまた来週

け:また来週!
posted by けいりん at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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