2007年12月01日

へっぽこSFファンによる、SF初心者のためのSF案内(第9回)

けいりん(以下「け」):最初に言っておく!
 ごめんなさい!

ケイリソ(以下「ケ」):……いきなりなんですか。

け:だってお前がいつも落としたのなんのとしつこく絡むから……

ケ:要するに逃げたわけですね。

け:うるさい! 人が素直に謝っているのになんだよ!

ケ:今度は逆ギレですか。

け:えーい、ああいえばこういう! うるさいうるさい! とっとと始めるぞ! 今回はこれだ!!


マイク・レズニック『キリンヤガ』/ハヤカワ文庫SF

ケ:……名古屋弁?

け:こ、こらっ、おまい、そういう特定地域の人をバカにするような言い方はよせ! だいたい名古屋弁は「……がや」だろうが! 

ケ:あ、そっか。

け:そうだ。みゃーみゃー言ってもいないぞ!

ケ:どっちがバカにしてるんだか。

け:いやまあそこはほんの冗談だ勘弁しろ。
 一応真面目に言っておくと、スワヒリ語でキリは山、ニャガは光のこと。つまり「キリンヤガ」とは「光の山」という意味で、ケニヤ山のスワヒリ名だそうだ。

ケ:はあ。アフリカSFですか。

け:まあそうも言えないこともないかな。だがこの作品における「キリンヤガ」とは、テラフォーミングされたある小惑星の名前だ。

ケ:えっと、じゃあ宇宙SF?

け:うーん。それはどうかなあ。前回紹介した『永遠の森』も、やはり居住可能にされた小惑星が舞台だったが、「宇宙」って感じはあまりしなかっただろう。今回もそう言う点では同じことだな。

ケ:はあ、なるほど。そういえば前回も思ったんですが、そういう作品って、敢えて舞台が他の天体上である必要があるんでしょうか。

け:大ありだ。いや、実は他の天体、という点にこだわる事はないんだが、それと同じくらい「行きにくい場所」であることには、充分な必要性があると思う。
 というのも、「地上とは隔絶した環境」を設定し、物語を展開する事で見えてくるもの、先鋭化されるものがあるからだな。遠い未来などを設定するのも一つの手だが、「他の天体」の場合には、間に「(未来の)地球」というワンクッションをおく事で、それらの物をよりくっきりと浮かびあがらせる効果があるように思う。
 それは『永遠の森』もそうだったんだが、今回紹介するこの『キリンヤガ』ではより明確だ。

ケ:どういう話なんでしょう。

け:うむ。舞台となるのがテラフォーミングされた小惑星「キリンヤガ」であることはもう話したな。そこに住むのはアフリカの「キクユ族」という部族で、この小惑星は、その部族のユートピアとして作られたものだ。
 この時代、少数民族や特定の社会的集団が、自分たちだけのユートピアを建造することができる「ユートピア法」というものがあって、複数の集団が同じようにユートピアを作り、暮らしている。
 この世界の主導者はコリバという呪術師。キクユ族の伝統的な生活を守るため、彼は様々な事件に、様々な手段で対処していく。本書はそんなコリバの奮闘を描く連作形式の作品だ。

ケ:なるほど、つまり小惑星上と言う隔絶した環境が、物語の設定上必要なわけですね。

け:そういうことだな。地上においては実現し得ない、キクユ族だけの世界、というのが様々な意味でこの作品においては重要なんだ。
 アフリカの一部族の伝統的な生活、というのが一方の主題であるため、物語にはどこか民話とか神話とか、そんな趣があってとても魅力的だ。
 ところが一方で、呪術師であるコリバが事件に対処する方法は、彼だけが独占しているテクノロジーや通信手段を使った物なんだ。彼がそれらをどのように使って呪術を演出していくか、というところが、まずはこの本のSFらしい読みどころと言える。
 もちろん、それは彼がどうやって理想とする社会を守っていくか、という物語展開と密接に関わっているわけで、SFらしさと物語的面白さの無理のない融合がここにはある。テクノロジーの描写を含みながらも、レズニックの筆運びは先に言った通り「民話的」な素朴な叙情をたたえており、堅苦しくならずに読む事ができると思う。

ケ:SFアフリカ民話、ですか。

け:そうだな。特に前半はそのような面白さがメインだ。
 ところが話が進むにつれ、そんなコリバのやり方にきしみが生じてくる。ユートピアであったはずの世界は、徐々にそのままで維持する事が困難になっていく。具体的な事を語るのは避けるが、この過程にこそ、全体を一つの物語としてとらえた時のドラマツルギーがあり、また本書のもう一方のSF的面白さがある。
 一編ずつを見れば「理想のために奮闘するコリバの物語」だが、一方では「社会がどのように変化していくか」を、コリバの戦いと苦悩を通して語った物語、という姿が、全体を俯瞰すると見えてくるようになっている。それは「ユートピアは可能か」という問いへの一つの答をはらみ、SFだからこそ描きうる隔絶された環境と「呪術」の存在を描く事でできた、このような思考実験的な部分は、本書の、いわば「大きな」SF的読みどころと言っていいだろう。

ケ:なるほど、それがテーマの先鋭化ってことですね。

け:その通り。
 これもまた前回の『永遠の森』と重なる点だが、本書は物語としての面白さも満点で、連作と言う形式の利用の仕方も抜群にうまい。SF的面白さ、という点でも、それらを背景に退かせる事なく、物語とがっちり噛み合わせながら、しかもそれが物語性を損なったり、読みにくさにつながったりする事がない。あらゆる意味で初心者に薦めるにふさわしい一冊だと思うのだがどうだろうか。

ケ:読んでいるうちにあなたもSFファンに!というわけですね。

け:いやまあそううまくはいかんだろうが。でも単純に「面白いから読んでみてよ!」と言える作品なので、SFをどう思うかに関わらず読んでみて欲しい本だな。特にSFマガジン読者賞受賞作の「空にふれた少女」は、ケータイ小説やら「泣ける」小説に夢中な人たちにも気に入ってもらえるんじゃないかとおもうくらい「泣き」の入った名品だ。いやまあ恋愛は絡まないんだけどな。

ケ:おお、言いますねえ。
 そんなわけで次回はいよいよ10回です。

け:ん。首洗って待ってろ!

ケ:なんだよそれ……
posted by けいりん at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 初心者に薦めるSF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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