2004年08月03日

『ゲド戦記外伝』

なんてこった、感想書いてなかったじゃん。

というわけで。原書では第5巻『アースシーの風』より前に発売されていたという、ゲド戦記の外伝。5編の短編は、どれもアースシーをより身近に感じさせてくれる。ロークの歴史に関わる『カワウソ』は、第4巻『帰還』が出た当時一部の古くからのファンに批判されたフェミニズム臭があるが、物語の豊穣さはむしろアースシーへ世界への新たな興味をかき立ててページを読む手を休ませない。『ダークローズとダイヤモンド』も、どこかしら『帰還』でのゲドとテナーを思わせるロマンス短編でありながら、爽やかな嫌みのない展開に、素直に読み進んでしまう。
『地の骨』『湿原で』は、「それでもフェミニズム臭が気になる」というファンも満足させる、感涙ものの2編。
そして『トンボ』。実はこの作品、先にこのアンソロジーに単独で収録、訳出されているのだけど、私は読んでいなかった。今回読んでみて、「『アースシーの風』の前に読んでおくんだった!」実際、このあと『アースシーの風』を読み直したのだけど、初読のときは充分満足したにもかかわらず、『トンボ』の後で読んだ方が何倍もリアリティと深みがまして感じられた。
まだどっちも読んでない人はラッキーです、ホント。

ファンタジーについて熱く語られた著者による前書きや、感慨がひしひしとつたわってくる訳者によるあとがきもすばらしい。
隅から隅まで、ファン必読といえる一冊。


ゲド戦記外伝
アーシュラ・K・ル=グウィン, 清水 真砂子, Ursula K. Le Guin

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2004年07月06日

『からくりアンモラル』森奈津子

前に見かけたときは見送っていたんだけど、家に帰った後で「面白そうだったなあ」感がしみじみ高まっていき、結局ネットで購入。

エロSF作品集。エロだけどSF、というよりは、SFとエロが密接に関わりあっていて、どっちをとってもこの独特の世界は成立しない。表題作はロボットの存在を通して少女が自分のものとしての性に目覚める姿を描いた佳作で、もしこの相手がロボットでなかったならば、全く別の意味を持った作品になってしまうのではないか。

自己愛あり、異種間性愛あり、SMありとバラエティに富んだ作品群は、一方でタイムトラベルやロボット、マイノリティとしての亜人間などのSF的なテーマにおいても多様性に飛んでおり、それらが絡み合うことで性の常識は相対化され、超克される。そういったテーマ性の部分、性における意識の変容を促す部分こそが、この作品集の最もSFらしい部分かもしれない。そしてたぶんその「相対化」を可能にしているのは、女性としての視点……「男たちの欲望の対象」としてではなく、自ら性に目覚めた女性としての、そして「ペニスがない性」ではなく「ヴァギナをもつ性」としての視点であるように思う。

「いなくなった猫の話」はわりと万人向けかも。エロくないけど、泣ける。




からくりアンモラル
森 奈津子

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2004年07月05日

黒い仏

アレだと言う話を聞いて読んだ一冊。
やー、楽しめました。
アレだということを言ったらネタバレじゃんと言う話もあるので一応伏せておきますが、いやなんの、アレでミステリ、といえば(たぶん)初の国産オリジナル作品はしっかりミステリ短編だったわけですし、どういう絡み方をするのか分からない限り根本的にはネタバレに当たらないと思います。一応伏せてはおくけど、読む前になんのことか知りたいと言う方にはこっそり教えますんで連絡下さいませ。

で、個人的にはアレと分かってた方が楽しめたような気もするんですが、まぁなんです、どのみち各章冒頭のお経風のナニとか、作中にちりばめられた店名、人名、章タイトルなどから、読みはじめればすぐ気が付いただろうなと言う気もしたりするのです。そういうあたり、アレマニアのための作品とも言えるかもしれません。実際僕はそう言う楽しみ方をしました。

がしかし。実はこれはやはりミステリ読者向けの作品なんではなかろうか、とも思います。もちろんガチガチのミステリファンが読後に本を放り投げたとか、百八つに引き裂いたとか、ショックのあまり出家したとか、作者の家に脅迫状を送ったとか、そういう話がミステリファンの間に流れているであろうことは容易に想像できる作品であり、結末なんですが。にもかかわらず、ミステリファン向けに書かれた小説と思ってしまうのは、「本格ミステリの脱構築を目指した云々」とかそういう小難しいマジメな意図とは全く別の意味で、軽々と、軽薄なぐらいに軽々と読者を裏切る、まさに人を食ったとしかいいようのない姿勢が、作中にちりばめられたマニアックなあれやこれに反応しない読者を想定しているのだとしか思えないからです。いってみればこれは、「怒られて、ぶん投げられて、脅迫状を送られて本望」という作品なのではないかと。

なので、「本格ミステリ原理主義者にはオススメしない」という評が多い中、私は敢えて、「本格ミステリ原理主義者必読」という評を与えておきたいと思います。その結果憤死しても責任はとりませんけど(笑)




黒い仏
殊能 将之

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2004年05月20日

例の、ほら、映画化されたっていうアレです。

「国内の小説売り上げ1位だってね」
「そうらしいですね」
「オマエ、読んだ?」
「読んでませんよー(笑)興味ないですし。だいたいタイトルのパクり方がむかつく」
「そうそう、しかも著者、オリジナル知らなかったぽいじゃん」
「そうみたいですね。まあガイナなんかそのまんまパクってますけど」
「あれはいいんだよ。わかってやってるんだから。第一『獣』とっちゃったらせっかくの名タイトルが台無しじゃんか」
「そうっすよね。全く、わかってないっつーか」
「映画化した人や出演者なんかはどの程度知ってるのかね」
「さあ、どうでしょ。本買った人の知ってる度合いも気になりますね」
「まかり間違ってさあ、ハーラン・エリスンの本を間違って買ったのをきっかけにSFファンになる人が増えて、ハヤカワの青背が飛ぶように売れて、絶版関係が軒並み復刊されて、サンリオSF文庫なんかも復活しちゃったりとか・・・」
「いやそれはないでしょう(キッパリ)」
「ダメかなあ。ほら、例のアニメが流行った時、コードウェイナー・スミスとかハーラン・エリスンとか、結構平積みにしてあったじゃん。そののりで売り出しかける書店とかないもんかねえ」
「全然客層が違いますって。あっちはヲタまっしぐらですからね」
「うーん、ダメか」
「しかし何にしても、あれだけ売れるっていうのはスゴイことですよね」
「まあね。半分以上出版社やマスコミの「売り方」の問題って気はするけど」
「いやいや、我々SF者から見ると極めてセンスのない、あのタイトルが良かったのかもしれませんよ」
「あり得る。オレたちみたいなののセンスって世間一般とは必ずしも一致しないからな」
「はっきりいったらどうですか、「世間一般とはかけ離れてる」って」
「いや、そこまでは(笑)。うん、しかしあれだな、もしそうだとすると、オレらにもチャンスがあるってことじゃないか」
「チャンス?」
「ベストセラーを書くチャンスだよ」
「?」
「ニブいなあ。要するに、「名タイトルを極めてセンスのないやり方でパクったタイトル」の小説を書けばいいんだろ」
「そ・そうかなあ」
「さっきお前が言ったんだよ」
「いやそこまでは言っていない気が。まあそれはともかく、例えばどんなのですか?」
「ん? おう、そうだな、例えば・・・『果てしなき流れ』なんてどうだ」
「そのパクリもガイナの二番煎じですね」
「いーんだよ、よりベストセラーに近い感じがするだろうが」
「そうでしょうか」
「そうなの。えーっと、他には・・・『流れよ、我が涙』は?」
「それはまんまダウランドのリュート歌曲のタイトルです。小説の方もパクられ歴長いですしね」
「ダメか。じゃあ、『パーマー・エルドリッチの3つの・・・』とか」
「『3つの』なんなんですか」
「それが気になってつい買ってしまう、とか」
「そもそも作中人物の名前つきのタイトルっていうのはいかがなものかと」
「うーん。じゃあ『時間飛行士にささやかな贈り物をしよう』」
「なんかの標語じゃないんですから」
「『ネズミと龍のゲイ』」
「シャレですか。しかもゲイ小説ですか」
「ゲイ小説だって立派な恋愛小説だ。差別はいかんぞ」
「でもベストセラーになりますかねえ」
「なんなら『ネズミ』を『ミッk・・・』」
「ストップ!それ以上はヤバいです」
「そ・そうか。ならば『果てしなき河よ彼女を返せ』」
「内容丸分かり過ぎですよ」
「『君は無慈悲な夜の女王』」
「・・・SM?」
「『老いたる僕の君への讃歌』」
「気恥ずかし過ぎ」
「『時間的無限』」
「カタい」
「『知性か戦争か』」
「だからシャレはよしなさいって」
「『博士課程綺譚』」
「・・・」
「わかったわかった。『幼年期』は?」
「パクりだってわかってもらえませんよ」
「『鋼鉄』」
「だからもとがわかりませんて」
「『第81Q』」
「なんすかそれ」
「『ペ』」
「そりゃSF者の隠語でしょ」
「『モナリザ・オーヴァ』」
「ええと」
「『ラルフ』」
「・・・」
「『プタヴ』」
「・・・」
「『ユービッ』」
「いーかげんにしてください!」

まあそんなこんなで。
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2004年01月14日

『不思議のひと触れ』

シオドア・スタージョン、河出書房。

スタージョンといえば『人間以上』。ずいぶん前に読んだのではっきりとは覚えていないのだけど、不思議に引き付けられたことだけはよく覚えていて、今でも再読の機会を待ちつつ本棚にしまってある。

今回のこの本はスタージョンの短編集。代表作に関する印象が上記のような状態で、その他には『夢見る宝石』も『コスミック・レイプ』も読んでいない僕が、なぜこの本をふらふら買ってしまったのか。確かに僕はSFファンだが、SFと名の付くものは片っ端から読みあさると言うタイプではないし、今後ぜひ買わなければならない何冊かの本の出版を待つ身としては、決して安い値段ではなかった。そのうえ(いつものことだが)家には積ん読の本が山ほどあり、その日だって別の階で、新聞の書評で気になった社会学系の本を買ったばかりだったのである。

じゃあ、なぜ、買ってしまったのか。
それは結局、最初に書いたような漠然とした印象だけで、「自分はスタージョンが好きだ」と深く感じてしまっていたからなのだと思う。

この本を読んで、その感じ方が正しかったことがよくわかった。
一編目となる「初めて売れた作品」『高額保険』は、単純ながらも非常に出来のいいショートショートだったし、その他の作品にしても、ブラッドベリに通じるような叙情と、魅力的なキャラクター描写、そして何より小説としての上手さが光っていて、実に楽しい短編集だった。

『裏庭の神様』なんかは、全く別の書き方で星新一とか筒井康隆なんかも使っていそうな骨組みなんだけど、そういう話だからこそ、スタージョンの作家性がよく現れている作品だと思う。それは解説の大森望も書いている通り、作業の具体性と、人物描写の魅力ということで、星新一がたんたんと話を進め、筒井康隆が状況をこれでもかというぐらい暴走させるのに比べると、ちょっとイヤミなぐらいバランスのとれた、それでいて十分に魅力的な「上手い」短編に仕上がっているのである。落ちも正直想像は付くけれども、これだけ読ませてくれれば文句は言えまい。

そんなわけで、これは晶文社から出ているというもう一冊の短編集も読まねばなるまいかなあと思っているところ。非SF作品が多いので、SFファンには物足りないかもしれないが、スタージョンが好きなら必読の一冊だと思う。また、なんでもいいから重過ぎず楽しい、けれども読みごたえのある短編が読みたいと思っている人たちへもお勧め。表題作はファンタジーと言えば言える、そのぎりぎりのところで成立した傑作。




不思議のひと触れ
シオドア・スタージョン , 大森 望

発売日 2003/12/22

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